隣人の死


マンションの隣室に住むおばあさんが、今日なくなった。
年は70過ぎくらいだろうか。
1人暮らしだけれども、毎日自転車を乗り回して、全然元気そうに見えた。
3日前には、熱を出していたうちの息子に、アイスクリームを持ってきてくれたそうだ。


ここ2日ほど連絡が取れないので様子を見てくれないか、と、近くに住む娘さんから、マンションの管理人に電話が入ったらしい。
おばあさんと親しかった上の階の人と管理人がうちへやってきて、最後に見かけたのはいつかと愚妻に聞いた。
どうも心配だという話になって、結局、管理人がうちのベランダから柵を越えておばあさんちのベランダに侵入し、室内をのぞいたら、つけっぱなしのテレビの前で、ごろんと横たわって死んでいたらしい。


あわてた管理人の指示で愚妻が119番に通報したため、愚妻が第一発見者のようなことになって、警察の事情聴取も受けた。
が、事件性がないのは明らかであったらしく、警察もすぐに帰って行った。


聞けば、おばあさんは、ここのところしばらく不整脈で通院していたそうなので、おそらく心臓だろうと思う。
発見時、たまたまうちには娘の友だちの親が遊びに来ていたのだけれども、彼女は今日にも陣痛が始まりそうな妊婦であるが、なおかつ看護婦でもあるので、そのような事態になって、すぐに現場を見に行ったらしい。
ぱっと見てすぐにもう死後かなりの時間が経っていることがわかるような様子だけれども、座椅子からそのまま寝転がったような格好で横たわっている。
もがき苦しんだ場合は、通常、うつぶせになっているのだそうで、そのような格好でないところから見ると、おそらく本当に一瞬でころっと亡くなったのではないか、と言う。


まだまだ10年でも20年でも生きそうに見えたので、たいへん気の毒にも思うけれども、誰にも迷惑をかけず、ぴんぴんしていたある日に一瞬でころっと死んでしまうというのは、老人として理想的な死に方だと思った。
ぼくも、死ぬときはたぶん心臓だろうと思っているので、不謹慎かもしれないけれども、このような感じで逝ければいいと思うし、実際できそうな気がしている。