イースター島の謎(3)

ずーっとこんな景色が続く



レンタカーを得て、早速島内観光に繰り出す。
最初に行ったのは、Ahu Tahai という遺跡。
ここには、頭部を破壊されたモアイが数体と、帽子や眼まで完全に復元されたのが1体ある。
前回(2)のときにアップした写真がおそらくその復元モアイ。
イースターには、確か1000体くらいのモアイがあると聞いた気がするけれども、ここの復元モアイは、立ってるモアイの中ではかなりでかい部類に入ると思う。
腐るほどあるモアイの中で、このモアイを最初に見たのはラッキーだった。
さすがにナマで見るモアイはいい。
感動した。
ぞくぞくして鳥肌が立った。
観光客は、我々の他には誰もいない。
て言うか、そもそも人っ子ひとりいない。
それがまた不思議感を増幅して、とてもよい。


イースター島のほとんどの場所は、山も川もなく、緑の草原の中に赤土の道路が延びているだけの景色が延々続く。
で、ときどきモアイがゴロゴロ転がっている。
Ahu Tahai もまあそんな感じで、とにかくそうした風景の中に屹立するモアイがやたらとフォトジェニックなので、前から後ろから横から、近くから遠くから、執拗に写真を撮りまくる。


我々がモアイの背面にまわり、一周して再びもとの正面に戻ってきたときであった。
さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にかモアイの前で半裸の男が地べたに白い布を広げ、土産物を並べている。
肌の色は黒い。
英語は通じない。
局部を布で覆っているのみで、あとは裸である。
靴も履いてない。
いや、それよりも、このだだっ広い野っ原の、いったいどこから突然現れたのかが理解できない。
この男はどこに潜んでいたのか。


売ってるのは、木彫りのモアイ・キーホルダーとかモアイ・ペンダントとか。
にこにこして愛想がいいので、何も買わないけれども、とりあえずいっしょに写真に写ってもらったり、シャッターを押してもらったりした。


次のスポットへ移動する途中、もう一度村を通過して、レストランに立ち寄る。
小腹が減ったので、軽く腹ごしらえ。
サンドイッチを注文する。
イースター島のパンは、懐かしいパンだ。
昔、給食に出たような、まるで味のない、スカスカの、がすがすしたコッペパンみたいの。
もがもがしてなかなか飲み込めない。


次に到着したのは、Orongo という遺跡。
ここは唯一、見学にお金がいるところで、アルバムに貼り付けてあるチケットを見ると、金額は「10」と書いてある。うーん、10ペソ、だったかな、これは。
観光客も、ちらほらおります。
Rano Kao という火山があり、どえらい景色。
左を見ると火山口、右を見ると断崖絶壁ですぐに海。
食人の痕跡があったり、鳥人伝説があったりと、この遺跡に関しては語り始めると止まらないのだけれども、そういうのはネットでいくらでも調べられるだろうから、割愛します。


断崖絶壁のそのすぐ先に小さな島(と言うか、岩が突き出てるだけだけども)が2つあって、その2つの名前が、手前から Motu Iti、Motu Nui という。
Motu は「島」の意であると想像して、そうすると、これらは、イティ島とヌィ島である。
イティ、ヌィ……イチ、ニィ……1、2だ!


イースター島の言葉は、ポリネシアの系統である。
以前、同僚にクック諸島マオリ族の酋長の娘っていう人がいたのだけれども、彼女に訊いたところ、イースター島の言葉は、通訳なしでだいたい理解できたって言ってた。
いずれにせよ、この辺りの言語の音韻は、日本人にとって無理のない音ばかりで、聞いていて違和感がない。
日本の縄文以前の文化は、ポリネシアとも深い関係があるはずで、この Motu Iti、Motu Nui という名前を見て、「日本語とイースター語はつながっている!」と安直に確信。
学術的裏付け、なし。
根拠は、Iti と Nui のみ。
しかも、Iti と Nui の本当の意味も実は知らない。
しかし、かようにして、イースター島に対する神秘のイメージは、自分の中で勝手にどんどん膨れあがっていくのである。


この Orongo がたいそう気に入ったので、長居した。
しばらくぼんやり座って時間を過ごした。
今度はちゃんと服を着た人たちが、やはり同じように地べたに広げた布の上に土産物を並べて売っている。
少し何か買ったんだか買わなかったんだか、忘れた。


見終わると、中途半端な時間になった。
遠出するほどの時間はないし、かと言って夜まではまだまだ時間がある。
Ahu Tahai と Orongo は、村から近いところにある遺跡である。
村にはすぐに戻れてしまう。
とりあえず、遠方に向かって、行けそうなところまで行ってみようということになった。


前回にも書いたとおり、イースター島で人が住んでいるのは、左のほんの隅っこの小さい一角にある村だけである(たぶん)。
右の方の大半部分は、延々草原とモアイだ。
その右半分の方へ、レンタカーで乗り出す。


とにかく強烈な景色である。
空の色が濃い。
雲が真っ白に見える。
海の色は、限りなく深い。
タヒチボラボラ島の、七色に変化するエメラルド・グリーンの海にも感動したけれども、イースターの海はそれとはまた別の、深くて濃くて、それでいて透明な感じのする群青色だ。
海本来の色、原始の海っていう感じがして、非常によい。
季節がよかったのか、草原の緑もきれい。
道路は舗装してなくて、濃い赤土。
基本的に火山岩でできた島なので、ところどころに赤黒い岩が露出してたり転がってたり。


その、空の青、雲の白、海の青、草原の緑、道路や岩の赤のコントラストが鮮烈で、極めて非現実的、異次元的な風景である。
で、のっぺりとした真っ平らな草原に、時折、子どもが絵に描くような、極めて幾何学的な形をした山や丘や台地がある。
昔、「はじめにんげんギャートルズ」っていう園山俊二のマンガがあったでしょ。あのマンガに描いてある山みたいな、わかりやすーい形の山、とか。
映画か何かの中に迷い込んだような、不思議な気分になってくる。


村から離れると、もはや完全に人の気配がなくなった。
車など、他には1台も走っていない。
ときどき、馬がいる。
牛もたまにいる。
村周辺では、馬には人が乗っているが、右半分の方では、馬だけがランダムに突如現れる。
最初は、「これは野良馬ではないか」と言っていたのだけれども、さすがにそんなことはなくて、放牧らしいと後で聞いた。


ときどきモアイがある。
立っていたり、転がっていたり。
どうせ明日はまる1日島内観光ツアーで、この辺にもまた来るはずだろうから、いちいちは降りないことにする。
て言うか、だんだん日暮れも近づいてきて、その景色の異様さに、我々は少し怖くなってきていた。


そもそも、とにかく人がまるでいない。
そして、景色があまりに強烈である。
マンガみたいな形、青・緑・赤の、やたらとコントラストの強い色。
そんな中にモアイがゴロゴロ転がっている。
その辺をUFOが飛んでいても、まるで違和感なく受け止められそうだ。
当然UFOはいるに違いないと思える。
て言うか、ここ、車降りたら酸素ないんじゃないの? 人間住めないんじゃないの? とか言いながら車を走らせる。


イースター島は小さい島なので、おそらく数時間で島の外周を1周できる。
最初は、だーっと走ってとりあえず1周してみようかとも思っていたのだけれども、それをやっていると村へ戻るまでに日が暮れそうだ。
それはおっかない。
適当なところで、引き返すことにした。
どうせ明日1日かけて1周するのだ。


村に戻ると日が暮れた。
海の近くのレストランで夕食。
またがすがすしたパンが出てくる。
あまり覚えてないけれども、とにかく大味な料理であったと思う。


何軒か土産物屋などものぞいたんだったか。
ホテルに戻ると、中庭の椅子に座って、しばし星を眺める。
星の数がやたらと多い。
南半球なので勝手がわからないけれども、とにかくぶっとい天の川のようなものが見える。
南十字星はどれだろうと思って探すのだけれども、よくわからない。


イースター島1日目、終了。