歌詞とJASRAC


小田嶋隆がブログで、ウェブサイトへの歌詞の掲載について、JASRACを挑発している。
http://takoashi.air-nifty.com/diary/2005/11/post_692d.html
http://takoashi.air-nifty.com/diary/2005/11/post_3b3a.html
歌詞の掲載については、ぼくも全く同様の疑問を持っていたので、ほんとにJASRACがからんできたらおもしろいのになと思っていたのだけれども、まあこの程度の単発的な掲載では、敵もいちいち反応していられないんだろう。


海外のサイトを検索すると、歌詞を掲載したホームページなど、星の数ほどある。
作者本人が自身のページで詞を公開しているパターンも多いけど、どうやら誰が勝手に掲載してもよさげな雰囲気で、lyrics.com みたいな総合的なサイトもたくさんある。


ところが、それを日本でやると怒られる。
金を払え、とか、削除しろ、とか言われる。らしい。
それで閉鎖に追い込まれたサイトも多い。らしい。
「何の権利があってあんたたちは……」、という言い方を小田嶋隆はしているけれども、正にそのとおりだとしか言いようがない。


著作権」そのものを問題にして何か言えるほど著作権のことをちゃんと勉強してないけれども、JASRACが「著作権保護」の美名のもとに守ろうとしているものは何なのか、ということが、そもそも理解できない。
例えばもし仮に、ぼくがこのブログ上で、モリッシーの詞を掲載し、その愛すべき表現について私見を述べたとして、それによってモリッシー著作権が一体どのように侵害され得るのか、というのがよくわからない。
ましてや、レコードについている訳詞が間違っているからそれを訂正してあげた、なんていうのは、礼を言われてもいいくらいのもんであって、金払えだの削除しろだの、意味がわからない。


小田嶋隆がその閉鎖を惜しむ「Think too much」というサイトは、ポール・サイモンの詞の誤訳を正して解説するという趣旨のものだったという。
実際、洋楽のレコードについている訳詞というのは、まあそもそも歌詞の英語というのが場合によってはすごく難しいということもあるけれども、それにしてもひどいものが多い。
最近はかなり改善されてきている印象だけれども、古いレコードのリイシューなんかは昔のライナーや訳詞をそのまま転載しているものも多く、明らかな誤訳を、ぼくなんかでもよく見つける。
中には信じられないくらい初歩的なミスもある。


そう言えば、大昔、渋谷陽一サウンドストリートで、レコードに付いてる訳詞の間違いをあげつらってスティーブ・ハリスが訂正するという、意地の悪いコーナーがあった。
1つ鮮明に覚えているのは、ジョニ・ミッチェルだったかの詞の一節に、「Hot dog! Darling!」というフレーズがあって、これは、「まあ、なんてこと、ダーリン」くらいの意味らしいのだけれども(今どきはそんな言い方、絶対にしないそうです。念のため)、それが歌詞カードではなんと「ホットドッグちょうだい、ダーリン」になっている、と(笑)。
文脈的に、「なんでいきなりホットドッグ?」と疑問を感じたリスナーからのハガキに答えたものだったと記憶している。
ネイティブ・チェック、絶対やってないよな、締切よほどキツいんだろうな、どうせ誰もわかんねえだろとか思ってたんだろうな……などと想像はできるけれども、そもそものレベルがとにかく低い。


で、最大の問題。
小田嶋隆もリンクを貼っているこのサイト(↓)
http://sevenz.com/iHateJasrac.html
によると、現在のところ、「外国曲の原詞及び訳詞は現在、適法にご利用になるための許諾が出せない状態」にあるのだという。
つまり、少なくともネット上では、合法的に詞を掲載する手段がなく、従って誤訳を指摘すること自体がそもそも不可能。
どうしてもやりたけりゃ、違法アダルトサイトみたいに海外のサーバを使え、ってか。
そんなバカな。
ちなみに、著作権法というのは、「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的」としています。
誤訳はちゃんと訂正しておかないと、文化の発展を大いに妨げると思うのだが。


作者本人にしたって、自分の詞が間違って訳されている状況を喜ぶはずがない。
ジョニ・ミッチェルだって、自分がホットドッグのことを歌ってるなんて思われたくないに違いない。
それをちゃんと訂正してあげようという、先の「Think too much」のようなサイトを支えているのは、アーティストに対する愛情以外の何物でもなく、金を払うどころか、もらってもいいくらいだろう。


JASRACは、近年、ライブハウスやジャズ喫茶なんかも標的にし始め、これまで何の通告もしてこなかったのに、いきなり経営者に対して10年分の使用料を払えなんていうことを言い始めた、というような記事をずいぶん前に新聞で読んだ。
ライブハウスなんかだと、出演するバンドがカバー曲を演奏することもあるだろうから、そこの部分に関しては金払え、と。
で、いちいち今月は何曲とか数えてらんないから、毎月定額にしてやるから、とにかく払え、と。
今まで何にも言わなかったけど、おたくの店はもう開業して10年になるから、10年分払え、と。
そういうことをほんとにやってるらしい。
ちなみに、こういうサイト(↓)も見つけました。
http://blog.livedoor.jp/jasrac1/


これ、どうなんでしょう?
なんか、ムカついてしょうがないんですけど、どういう理路でこんなことになってしまってるんでしょうか?


実は先日、愕然とするような誤訳を見つけた。
フェアグラウンド・アトラクションの『The First of a Million Kisses(邦題「ファースト・キッス」。←この邦題がすでに感じ悪い)』は、ぼくの人生の1枚であるけれども、これをぼくはアナログ、CD共にずっと輸入盤で所持していた。
ので、当然、訳詞は付いていなかったのだけれども、しばらく前にこのアルバムがリマスターされた際に、今度はこれを日本盤で買っておくことにした。
買ってからも、ライナーノートには目を通してなかったんだけど、先日、何気なくパラパラ眺めていたら、その訳詞がなんともひどい。
実に耐え難い。
この訳詞を読んだ人がまんま信じて読んでいると思うと、実に気分が悪い。
しかも、それを訂正する方法がない。


何かが大きく間違ってると思うんだけど、どうなんでしょうか。