風の強い日


朝から窓の外が、台風の時みたいにびゅーびゅーうなっている。
自転車通勤なので、防寒はきちんとしなければいけない。
今日からニット帽を着用することにして、上着も、コートを引っ張り出した。
今年の春まではずっとスーツを着ることがなかったせいで、ずいぶん長い間袖を通していなかったステンカラーのコートを、おそらく10年ぶりくらいに羽織ってみたら、ところどころシミがあるものの、まあ何とか許容範囲。
学生時代に買ったものだから、たぶん20年くらい前の品だ。


いつものように、小学校の門の前までは、息子と一緒に歩く。
息子、2度、帽子を風に飛ばされる。
非常に寒いけれども、笑えるくらい風が強いので、むしろ風を楽しんでいる。
途中の橋には、氷が張っていた。


帰りになっても、風はやむどころか、ますます強い。
職場周辺はビルが並んでいて、駅のロータリー付近などは、変な具合にビル風が巻いているらしい。
北風だと思っていたら、急に南から突風が来たりする。
正面から吹くと、一瞬息ができなくなり、押し戻されそうになるくらいの風が吹く。
自転車にまたがって信号待ちしていたら、突然右からどえらい風が吹いてきて、ステンカラーのコートが船の帆のように全面に風を受け止めてしまったせいで、自転車から飛ばされて転びそうになった。


うちの伯母がよくする話を思い出した。
伯母が小学校低学年だった頃だから、戦前の話だろう。
台風で小学校が早退けになって、心細い思いをしながら1人で傘をさして家へ歩いていると、突風が吹いた。
当時クラスでいちばん小柄だった伯母は、傘を握ったまま、メリー・ポピンズみたいに空中に舞い上がって、そのまま脇を流れていた川のど真ん中まで飛ばされて落ちたのだという。
実に信じにくい話だと思っていたけれども、40近くになっても、身体が浮き上がるような風が吹くものなんだとわかって、さもありなんと思えるようになった。