キング・オブ・シニック
高校時代は、専ら洋楽の詞で英語を勉強していた。
て言うか、趣味だったから、勉強とは思ってなかった。
詞を解読するために参考書や辞書を隅々まで読んでた。
英語を習得するには、やれ音読がいいとか、多読がいいとか、テープを浴びるように聞き続けるのがいいとか、いろんな方法が言われるけれども、ほぼ確実に一定の成果をあげる方法のひとつに、例文の暗唱がある。
100個の例文を覚えれば、最低100種類の場面に対応できるし、現実にはその応用がどんどん利くようになるから、ワザがどんどん広がる。
問題は、味も素っ気もないような例文を次々に覚えることの退屈さに、通常の神経では耐えられないということだ。
でも、それが気の利いた歌詞であれば、いくらでも自然に覚えられる。(暗唱用の例文に比べると、受験の役には全然立たないけど)
それを、無意識のうちにやっていた。
恐らくはそのせいで英語がやたらと得意になってしまい、英語が得意だということを自分のアイデンティティの一部だと錯覚してしまったために、その後の進むべき道を誤った。
不本意にも英語を飯のタネにしてしまった、その最初の間違いは、さかのぼるとこの高校時代にある。
昨日「Faitytale of New York」の詞を覚えている自分に気がついて、そういうことを思い出した。
詞だったら何でもよかったわけではない。
気が利いてないといけない。
悩める思春期の心に響くものでなければならない。
そういう気の利いた詞を書くのは、往々にしてイギリス人だ。
中でも印象的なのは、モリッシー御大。当時はスミスが絶頂期だった。
スミスのアルバムは、その当時のだからみんなアナログ所持で、今はもう実家の、容易には取り出すことの出来ない箇所に格納されてしまっている。
だから、もう何年も聴いてないんだけれども、いまだにソラで言える詞がいくつもある。
一度覚えたら忘れないのも、歌詞のいいところ。
たとえばこんなの。
♪Unruly boys
Who will not grow up
Must be taken in hand
Unruly girls
Who will not settle down
They must be taken in hand
A crack on the head
Is what you get for not asking
And a crack on the head
Is what you get for asking
(拙訳)
いつまでたっても大人にならない
手に負えないような少年は
放っておいてはいけない
いつまでたっても身をおちつかせない
手に負えないような少女は
放っておいてはいけない
何も尋ねず黙っていたら
頭を一発ぶん殴る
何かを尋ねてきても
頭を一発ぶん殴る
で、タイトルが「Barbarism Begins At Home(野蛮主義は家庭から始まる)」(笑)。
念のため、英語は海外のサイトから拾ってきましたが、ちゃんと頭にも入ってました。
邦訳は、スミスの歌詞カードについてるものは割と優秀で、だいたいこんな感じで訳してあったと思うんだけど、基本的には自分で訳してるので、レコードとは違ってると思います。(訳自体は合ってるはず)
モリッシーが素晴らしいのは、中学生にでも訳せるような平易な言葉で、最強の皮肉を産み出すところ。
いろいろ思い出してきた。
当時、自分のテーマのようによく口ずさんでいた一節。
♪I was looking for a job, and then I found a job
And heaven knows I'm miserable now
In my life
Why do I give valuable time
To people who don't care if I live or die ?
(拙訳)
仕事を探してた
そして仕事を見つけた
それなのにぼくが惨めなことを天は知っている
ぼくが生きていようが死んでいようが気にしないような人々に
どうしてぼくは貴重な時間を捧げるのか
(全体はこちら http://www.oz.net/~moz/lyrics/hatfulof/heavenkn.htm)
思春期だ(笑)。
高校生にでもすぐ読めるような平易な英語で、高校生風に直訳しただけで、強烈な毒が出てます。
これが素晴らしいところ。
サビは、life, time, die でちゃんと韻を踏んでますよ。
こういうのは絶対に忘れない。(覚えてても役には立たんが)
タイトルだけでも痛快です。思いつくままに、
「That Joke Isn't Funny Anymore(その冗談はもう笑えない)」
「How Soon Is Now?(「今」ってあとどのくらい?)」
「Work Is a Four Letter Word(Work は四文字言葉)」
「The Boy with the Thorn in His Side(心に茨を持つ少年)」
「Meat Is Murder(食肉は殺人)」
「Headmaster's Ritual(校長の儀式)」
「Please, Please, Please Let Me Get What I Want(お願いだから欲しいものをくれ)」
……等々。
現地では、エルヴィス・コステロとかの詞も評価が高いらしいけど、コステロの詞はもっと散文的で英語も難しく、高校生にはよく理解できなかった。
やっぱりモリッシーなのだ。
もうひとつ思い出した。
♪Burn down the Disco
Hang the blessed DJ
Because the music that they constantly play
It says nothing to me about my life
(拙訳)
ディスコを焼き払え
ありがたいDJをつるし上げろ
あいつらが絶えずかけてる音楽は
ぼくの人生の足しになるようなことは何も言っていない
(全体はこちら http://www.oz.net/~moz/lyrics/theworld/panic.htm)
……きりがないのでもうやめます。