日の出と日の入


毎朝、判で押したようにきっちり6時半に家を出る。そういう生活がもう5年以上続いている。
ほんとはもっと遅くても間に合うのだけれども、50分間立ちっぱなしで電車に乗るよりは、多少早起きしてでもずっと座れる方がいいと判断した。6時半に出ると、最寄り駅始発の電車に乗れるので、確実に座れる。
昔から朝は苦手で、どこに行くのでも極力遅くまで寝るようにしていたので、今までの人生でこんなに早起きしていたことは一度もない。それでも、立ちっぱなしで電車に乗っていくよりは、こうした方が1日楽に過ごせる。


6時半だと、真冬はまだ真っ暗だ。
毎日一年中同じ時刻に家を出ていると、いろいろ発見することがあって、日々の日の出の時刻の移り変わりなどについても、たくさん気づいたことがある。


1年でいちばん日が長いのは夏至で、いちばん短いのが冬至である。それくらいは知ってる。でも、ぼくはその事実を相当単純に考えていた。


太陽に対して地球の自転軸が少し傾斜しているから、日の長い短いができて、暑い季節と寒い季節ができる。で、その傾斜の角度がいちばんきつくなるのが冬至夏至だ。
だから、ぼくは、正午を1日の中心として、朝夕の両方向に、いちばん日照時間が延びるのが夏至で、いちばん縮むのが冬至だ、とごく単純に思っていた。従って、日の出時刻がいちばん早いのは夏至の日で、いちばん遅いのは冬至のはずだ、と。
ところが、毎日6時半に家を出ていると、どうもそのようではない。いつまでたっても日が昇らないのは、1月の初旬か中旬頃のようなのだ。
これがどうにも解せない。なぜそうなるのか、理解できない。
冬至がいちばん日が短いというのは絶対に事実であるはずだから、そうすると、冬至の日は、日の出時刻がいちばん遅いわけではないけれども日の入がめちゃくちゃに早くて、トータルでいちばん短い、ということになるのだろう。
なぜそうなるのか、理解できない。頭の中で、太陽を中心にして、ちょっと傾いて自転しながら公転する地球をイメージしてみるのだけれども、どうしてもわからない。


また、太陽に対する地球の自転軸の傾斜角は、地球が公転するに伴って、徐々にきつくなったり緩くなったりするはずで、なおかつ地球の公転のスピードは一定なはずなんだから、日の出や日の入の時間も、一定の割合で(例えば毎日○○秒ずつ、とか)、きっちり変化していくものだと思っていた。
ところが、これもどうもそうではない。
毎日暗かったと思ったら、ある日突然明るくなったりする。
日の出時刻の移り変わりは、グラフにすると、きれいな一直線を描き、1年間で正確な二等辺三角形になるのだと思っていたのに、違うらしい。急に伸びたり、だらだら変化したりして、かなり複雑なグラフになると思われる。
毎年、その、急に日の出時刻が早くなるタイミングを見極めようとするのだけれども、ぼくの経験では、1月下旬から2月上旬くらいがとてもあやしい。2,3日のうちに、一気に日の出時刻が早まるタイミングが、ここらあたりにあるように思える。油断していると、いつの間にか、玄関を出た瞬間すでに明るくなっていたりする。(土日休んでるうちに急に明るくなってたり、また、雨や曇りだと日の出がはっきりしないので、よくわからないうちに急に明るくなってたりして、なかなか見極めは難しい。)
で、これも解せない。なぜそうなるのか、どうしても理解できない。
だって、地球の速度は一定なはずだろう。なんで急に変化のスピードが上がったりするのか。


先日、ふと思いついて、酒席でだいぶ酔いが回ってきた頃、隣席にいた同僚の理科教師に、この問題をぶつけてみた。
これは相当な難問であるに違いないと思っていたら、「それはね……」と、実にあっさりと答えが返ってきた。
どうも、こういうことらしい。
つまり、地球の公転軌道というのは、完全な円ではなくて、楕円軌道なのである。だから、比較的なだらかなカーブを描いて回っている時期と、急カーブする時期がある。急カーブするときは、車と同じように、地球も外側にふられるので、そこでスピードが変わる。それで、冬至にいちばん日の出が遅いというわけではなくなるのだ、と。


うーむ。
「ほうほう、なるほど、そうですかそうですか」と感心してみせておいたものの、やはりちっとも解せない。
今では、ぼくの頭の中では、地球はちょっと傾きながら楕円軌道で太陽の周りを回っているのだけれども、だからと言って、それが冬至夏至の時にどんなことになっているのかは、ちっともうまくイメージできない。
事態は想像以上に複雑な様相を呈してきた。