パオロ・マッツァリーノ『反社会学講座』を読む


すらすら読めて面白かった。「反社会学」と言うよりは、まあ、社会学者よ、ちゃんとやれよ、と。そういうことか。
文章からしてかなり若そうだし(あ、30代って書いてあった)、論旨もすっきりしてて明晰だし、ユーモアのセンスもいいし、よく調べてるし、非常に優秀な印象。しかし、この程度の反逆(?)で、こんな筆名で出さなきゃならんほど、社会学の世界というのはやっぱり了見が狭いのだろうか。ushiro氏はこれ読んだ? そのスジの人間としてはどんなもんでしょう? 正体知ってる?


特に面白かった箇所。要約です。
「フリーターが多いのは日本だけではない。欧米はもっと多い。ただし、例えばフランスには日本式のアルバイト・パートという労働形態がない。1日の契約でも社会保障に入らない雇用など考えられない。オランダもパートと正社員の待遇は平等である。両国とも、社会の実情の変化に合わせて、現実的な改革を行ったのだ。ところが、日本の政治や行政は社会の変化に対応するどころか、変化した事実を認めず、はみ出し者を旧来の枠に戻そうとする。
こうした例は労働問題だけにとどまらない。アメリカには聾唖者のための大学がある。世の中には障害者がいるという事実を受け止め、それに合わせて社会システムを調整しようという発想だ。しかし日本は、障害者が既存のシステムに溶け込むよう『頑張って』くれることを期待するだけ。
少子化不登校の問題も同様。少子化社会になった事実を受け止めて、子どもが少なくてもやっていけるように社会の仕組みを変えるべきだ。不登校の子が増えたのなら、学校に行かなくても勉強できる制度を整備すればいい……」
100%同意。不登校の問題について言えば、経験的に、本格的に不登校状態になった生徒を教室に連れ戻すのは、ほとんど不可能か、仮に連れ戻せたとしてもろくな結果にならない。学級崩壊や不登校が増えたのは、「ダメな子」が増えたからではなく、学校というシステムが疲労しているからだと考えないと、今どきの子どもを昔の子どもに戻そうとしたって無理に決まっている。


その他、部分的には、ちょっと首をかしげてしまうところもあったけれども、概ね納得できる内容。
アカデミズムの世界には同じようなことを言っている人はたくさんいると思うけど、世間に流布するタチの悪い俗論を、こういう平易な言葉で、笑いもとりつつぶった切っていくという姿勢が貴重だと思う。
図書館で借りたけど、買ってもよかった。