『漱石と三人の読者』石原千秋(講談社現代新書)を読む


漱石と三人の読者』石原千秋を読了。非常に面白く読んだ。
漱石論というのはきっと星の数ほどあるのだろうけれども、だからこそ、よほど面白くないと今さら出せないということもあるだろう。見かけるものはどれもみな面白い気がする。
もっとも、ぼくの漱石のイメージは、関川夏央谷口ジローのあのマンガがベースであって、そもそも漱石の作品自体をほとんどまともに読んでいない。だから、漱石論を批評するだけの素地と言うか教養がないのであって、何を読んでも、ほほうなるほど、と思ってしまうのかもしれない。
よく考えれば、大人になってちゃんとした意識を持って読んだのは「猫」と「ぼっちゃん」、「私の個人主義」、あとは「夢十夜」「思ひ出す事など」等の短編や随筆だけで、その他はほとんど読んでないか、あるいは読んだかもしれないが覚えていないものばかりだ。これでは漱石論を読む資格がそもそもない。
さらに言うと、漱石論だって、まずもって江藤淳を読んでいない。漱石に関する文章を読んでいると、江藤淳は当然頻繁に引用されるので、そうした部分的な引用や言及を何度も目にするうちに、だいたい江藤淳という人が漱石についてどんなことを書いたのかというのはイメージできるようになってしまった。それが正しいかどうかはともかくとして、読んでもいないのに何となく知っているような気分になってしまっているから、余計あらためて読む気にならない。いや、ほんとは読んでおけば、漱石作品も、数々の漱石論も、きっともっと深く楽しく読めるだろうとは思っているのだけれども、やっぱりなかなか腰が上がらない。だいいち、学者でもないし漱石の研究者でもないんだから、しんどそうな本を無理して読む事情もない。
でも、この『漱石と三人の読者』を読んで、また改めて漱石が気になってきた。死ぬまでには全著作と主要な漱石論くらいは読みたいと思う。