チリ紙交換 


昼休みに外でタバコを吸っていたら、物干し竿を売るトラックが通りかかった。
そう言えば最近は、「さおだけー」って連呼して売ってるのをあんまり見かけなくなった気がする。上品に「高級物干し竿はいかがでしょうか……」等とテープが繰り返すだけで、面白くない。それと、「御不要の中古バイクはございませんか」みたいなことを言ってるのがよく通る。あれはいったい何なんだろう。不要になった中古バイクなんて、そんなにたくさんあるんだろうか。


チリ紙交換がいなくなったのはいつ頃からだろう。古紙の値段が暴落して以来、チリ紙交換という職が成立しなくなった、というのはずいぶん昔に何かで読んだ。
20〜30年前くらいは、毎日のように見かけた。その頃は、「毎度おなじみー……」っていうやつも、抑揚のないテープの声などではなくて、拡声器で、おっちゃんがマイク片手にトラックを運転しながら自分でしゃべっていた。
新聞がたまっているときに近くをトラックが通ると、母親に言われて外に飛び出して合図する。すると、チリ交のおっちゃんは、拡声器で遠くから「はいよー」と返事して近寄ってくる。新聞紙の大きな束を3つも4つも渡すのに、トイレットペーパー1コしかくれなかったのを、不思議と鮮明に覚えている。
小学校の高学年か中学生の頃だったと思うんだけれども、うちの近所でよく見かけるチリ紙交換がいた。トラックの窓を開けて、だらしなく半身を外に出し、拡声器でだらだらしゃべりながら走っている。その話がちょっと変わっていて、チリ紙のことなんか何も言わず、いつも自分の身の上話をしているのである。「嫁はんには逃げられ、2人の子どもは言うこときかん……」みたいなことを延々しゃべっている。それが子ども心にも面白く、いや、子どもだからこそ面白かったのか、あとを追っかけたりしたこともあった。
そのチリ紙交換のおっさんが、同級生の父親だということがわかったのは、しばらく後のことだった。その同級生はどちらかと言うと大人しいタイプだったし、ちゃんと母親もいた。