台風と停電

また台風が来る。


子どもの頃は、台風が来るとよく停電になった。今のようにあっという間に復旧するのではなく、数時間は続く。だから、台風接近となると、親が停電対策をしていたのを覚えている。
昔のマンガなんかには、台風が近づくと窓や戸に板を打ちつけていたりするシーンがよくあったけれども、近所には確かにそういうことをやっている家もあったように思う。特にうちのあたりは伊勢湾台風の経験がまだ記憶に残っていただろうから、慎重になっていたのかもしれない。


停電対策と言っても、普通はせいぜいろうそくや懐中電灯を準備しておくくらいのものだろうけれども、うちの場合はそれに加えて、水の問題があった。小学校4年生になるまで住んでいた家は、水道水ではなく井戸水を使っていて、井戸の水を電気のモーターで汲み上げていた。蛇口をひねると、家の外にあるモーターのうなる音が聞こえた。だから、電気が止まると水が出なくなる。
台風がいよいよ来るとなると、母親はポットだのヤカンだの洗い桶だのに水を張って停電に備えた。その様子が、非常時だという感じを増幅させた。


停電は好きだった。テレビも見れず、ろうそくの火だけだから、普段はバタバタと家事に追われている母親も、じっと座っているしかない。薄暗い居間で、ろうそくの周りにみんなでいるのが面白かった。


もしああいう停電がまた起こったら、やっぱり外は完全な闇になるのだろうか。台風だったら、月明かりもないだろう。窓の外を見ても真っ暗闇で何も見えない、そういう状況をもう一度経験してみたい気がする。