T.REX研究室(3)

m-riki2006-07-10



2.その他のメンバー


Tレックスは言うまでもなくマーク・ボランのワンマン・バンドであって、その他のメンバーについて語られることがほとんどない。
けれども、ワンマンと言えどバンドはバンド。
そのメンバーの働きは重要だ。
1人ずつ検証します。


Mickey Finn (Per)
ど素人です。間違いない。
ティラノザウルス・レックス時代からのコンビだけれども、マーク・ボランはルックスで選んだはず。
マーク・ボランは天性のアイドルなので、そうしたイメージ戦略も絶対に意識していたに違いない。
音楽的には、いてもいなくても同じ。
そもそも、Tレックスになってからは、パーカッションの音なんてほとんど聞こえません。


Bill Legend (Dr)
モタるスネア、どたばたのキック、ぶっ叩くしか脳のないシンバルさばき、意味不明のフィルイン……、技術的にはアマチュア・レベルのドラマーだ。
しかし、このドラマーには、それらを補って余りある優れた長所がある。
とにかく音が太い、重いのだ。
技術では足元にも及ばないが、音色だけはボンゾ顔負けのヘビー級である。
そして、下手だけど熱い。
太く重い音色と、下手だけど勢いのあるノリ、意志を感じさせる叩きっぷり。
このずっしりしたドラム・サウンドが、全盛期のTレックスにおいて果たしている役割は、実は相当に大きいと思う。


Steve Currie (B)
下手だ。
て言うか、明らかに間違えてるのに、スタジオ盤でOKテイクになってるのがそもそもおかしい(笑)。録りなおせよ。
そういう曲がいくつもある。
ベーシストがスケールアウトしちゃいかんだろ。
5度やオクターブを激しく上下する独特のフレージングも意味不明だ。
不自然に手数が多い。
せわしない。
落ち着きがない。
しかし、その飄々とした軽いノリと、Bill Legend のヘビーなドラム・サウンドが、妙にマッチしている。
そこがこのバンドのひとつのポイントだ。
前述のとおりドラムがヘビー級なだけに、そこへずっしりと重心の低いハードロック風のベースを組み合わせると、全体のトーンはもっとずっと重々しくなるはずだ。
また、ゴリゴリ、ビンビン鳴らすフーのジョン・エントウィッスルみたいなロックンロール風でもいけない。
重いドラムに飄々としたこのベースの組み合わせが、グラマラスできらびやかなトニー・ビスコンティの音作りには、ほとんど完璧にマッチしていると思われる。
重厚なドラムサウンドは空間的に、手数の多いベースは時間的に、それぞれ音の隙間を実にいい具合に埋めて、ビスコンティ流ウォール・オブ・サウンドに貢献している。
もちろん全くの偶然の賜物だと思うけれども、こういう絶妙なさじ加減が、歴史に残るバンドにはちゃんと発生しているものなんだと思う。
Tレックスのサウンドは、意図と偶然が奇跡的に絶妙に作用しているとしか思えない。


Howard Kaylan and Mark Volman (Cho)
正式なメンバーではないけれども、Tレックス全盛期の重要なバッキング・ボーカル。
確か、元タートルズ、だった。と、思う。
Flo & Edy(? スペル違ってるかもしれん)という名前で、アルバムも出している。
そのアルバムを、ぼくは持ってる。しかも日本盤。実家のどこかに眠ってるけど。あれ、貴重盤だと思うぞ、きっと。
ともあれ、Tレックスのあのコーラス、男なんです、実は。裏声で歌ってる。
Tレックスのサウンドの中性的、両性的ムードは、マーク・ボランの独特の声と歌い方ももちろんのこと、この異常なコーラス隊が醸し出す部分も大きいということを見逃してはならない。
実際にはマーク・ボランやトニー・ビスコンティが裏声でコーラスかぶせてる曲も多いらしいけど、いずれにせよ、全盛期のバッキング・ボーカルはみんな男の裏声。
しかも、音楽的には、ちょっとわかった人なら誰もが苦笑するデタラメなコーラス・ワークだ。
コーラスなのに全然ハモってなくて、単にオクターブ上を歌ってるだけ、っちゅうような曲がいくつもある。
フロー&エディの2人はもっとプロフェッショナルなミュージシャンだと思うのだけれども、たぶんマーク・ボランにやらされてたんでしょう。
しかし、そのデタラメなごり押し裏声ユニゾンコーラスの魔力が、逆にTレックスを現代でも通じるものにしているのではないか、と実は考えております。


その辺のところはまた後日。
次回は、Tレックスのアレンジを研究します。