パラオ(出張)紀行(1)

パラオの駄菓子とビール



午前11時30分のコンチネンタル航空便でセントレア発。
うちのボスと2人。
用件も特にヘビーではないし、まあ今回の出張は気楽な部類に入る。ボスのその上の人、とか、その上の上の人、とか、いちばん偉い人とかがいっしょだと、大変ナーバスなものになるに違いない。


3時間半でグアム空港に着。トランジットのみだが、いったんアメリカに入ることになるので、入国手続き。めんどくさい。
グアムとは1時間の時差があるから、現地時間の16時着。パラオのコロール行きの便は、19時40分発なので、待ち時間が3時間半もある。
免税店を隅々まで吟味し、ホットドッグを1つ食べてもまだまだ時間があるので、ガラス越しにグアムの海を遠くに眺めながら、読書して時間を潰す。
グアムの空港はエアコンが効き過ぎなのか、名古屋を発ったときの服装(Tシャツ、ボタンダウン、フリース)のままで特に暑くない。
周囲を見ても、Tシャツ1枚の人もいれば、コートを着たままの人もいる。


予定通りの時間にコロールへフライト。2時間でコロール着。
グアム〜パラオ間の便は、1日に1往復しかない。曜日によって、週の半分くらいはヤップ島を経由する。
行った人の話によると、ヤップでのトランジットは、「監獄のような待合室」に幽閉されるとのことで、実に興味深いと思ったのだけれども、残念ながら今回の行程は、往路復路共にヤップ経由なし。
結果的には楽でよかったのかもしれないけれども、是非ともヤップも経験しておきたいところであった。


パラオは日本と時差がない。
グアムからはまた1時間戻るので、20時40分に着。
周りは日本人(か中国人か台湾人)だらけ。
入国審査の列に並んでいるとき、うちのボスが周囲に盛んに話しかけていたのだけれども、誰もが皆ダイバーであった。
パラオはダイバーズ・ヘブンとして名高い。
しかも、2月は乾期にあたり、ダイビングのベスト・シーズンとのこと。


明後日にお会いすることになっているXさんが、空港で出迎えてくれる。
Xさんは、シニア・ボランティアとしてパラオに住んで2年目の日本人。もとは会社経営者だった。
空港からは送迎バスがあるということは伝えてあったのだけれども、わざわざご挨拶にと来てくれた。
「さすがに暑いですねー」と言うと、「今日は特別に涼しいですよ」とのこと。
パラオは蒸し暑い。
ハワイとかみたいにカラッとはしてなくて、日本の夏のようにむしむしする。
さすがにもうフリースもボタンダウンも脱ぐ。
夜だけれども、Tシャツ1枚でも汗が出る。


送迎バスにて、パレイシア・ホテル・パラオへ。
パラオの道路は路面がでこぼこ。
20分ほど揺られて、21時30分頃にチェックイン。
パラオと言うと、有名なのはパラオ・パシフィック・リゾート(以下PPR)ということになっているけれども、逆に言うと、リゾート客の要求に耐えられるホテルは、パラオにはPPRしかない。
パラオにおけるホテル不足は、指摘されて既に久しいところである。
昨年には、パラオ・ロイヤル・リゾート(以下PRR。ややこしいけど)というのがオープンして、これでかなり情況は改善したけれども、やはりリゾート客を受け入れるにはまだ少ないと言うべきかもしれない。
長期滞在型のダイバーを受け入れる安宿は、量的にも需要を満たしているのだろうが、リゾート開発はまだまだ大きく余地があるように思える。


パレイシア・ホテルというのは、まあランクとしてはPPRよりやや劣るという程度のようだけれども、圧倒的に違うのは、市街にあるということ。
前にも後ろにも、海がない。(部屋からは見えるけど)
前にはゴミゴミとした街、後ろにはボロボロの民家。実にアジア的な景観が広がる。
しょうがない、仕事なんだから。
PPRに泊まっちゃってもよかったのかもしれんが、こっちのが仕事に便利だし、ちょっと安い。
ボスは「PPR、PPR!」とうるさかったが、前例に倣いパレイシアと相成った。


確かに、もしPPRに泊まっていたら、わずかな隙をついて、プライベートビーチで泳ぐことも可能だった。
その点、ボスはあまりに正しい。(ちなみにボスは10年ぶり2回目のパラオ
しかし、どうせ大して泳げないのならば、むしろパレイシアの方がよかったとも言える。
こっちの方が、スーパー、雑貨屋、土産物屋、飲食店も充実してるし、何と言っても、リアル・パラオを体験できる。
リゾート・ホテルからは、真のパラオの姿は見えてこない。
……と考えて、自分を納得させることにする。


限られた時間しかないし、中途半端な機内食で小腹が空いていたので、部屋に荷物を置いて短パン・サンダルに履き替えたらすぐに1人で外に飛び出す。
地球の歩き方」で目をつけておいたレストランまで10分ほど歩く。
が、店の前まで来たら、店内で日本人客がバカ騒ぎしているのが聞こえてきたので、嫌になって引き返し、別の店に入る。
座ったら、取りあえずサービスだということで刺身がひと皿出される。十分1人前以上ある。マグロ、か。美味しいけど。
あとは、極めて雑な作りの餃子(皮がぶ厚い)と、溺れるほどの量があるフレンチ・フライでビール3本飲んで、ほろ酔いになって外に出る。


パラオのメインストリートと言える通りだけれども、路面はやはりでこぼこで、歩道などない。
道路脇は、舗装されていない。
犬がみんな放し飼いで、そこいら中に犬がいる。
最初は野良犬かと思ったけれども、みんな首輪をしている。
子どもの頃、家の近所によく野良犬がいたのを思い出した。
うちの娘は鎖につながれていない犬を見るとすぐに泣き出すので、ここを連れて歩くのはちょっと無理だな、などとどうでもいいことが頭に浮かぶ。


ホテルへの帰り道、雑貨屋に寄って、駄菓子とビールを買う。
レストランの値段は日本と大差なかったけど、雑貨屋に入ると、さすがにちょっと安い。
缶ビール1缶が1ドルくらい。
レジで、地元の人が、タバコを1本ずつバラで買っていた。
おねえさんがパックを開封して、1本ずつ取り出す。
タバコは高いらしい。


海外に来ると、星を見るのが楽しみだ。
以前、イースター島で見た、天然プラネタリウム状態の星の数は、忘れられない。
パラオも、きっと星がきれいに違いないと思っていた。
が、あいにくの曇り空と、満月の明るさ故か、雲の切れ間にも、それほど星は見えない。
その代わりに、月の明るさがすごく印象的で、月明かりだけで、空全体の雲の形が全部くっきりと浮き上がっている。
まあこれはこれでよかろうと満足し、空を見上げながら、雑貨屋で買ったビールと駄菓子をぶら下げてホテルへ帰る。


なんだかんだ言って、海外旅行でいちばん楽しいのはこういう時間だ。
ちょっと酔っぱらって、見慣れない店で見慣れないモノを買って、見慣れない景色を眺めながら歩く。
特に、地元の雑貨屋や何かで、地元の人に好奇の目で見られながら、得体の知れないモノを買うのが好きだ。


部屋に戻って、シャワーを浴びて、ビールではなくてミネラル・ウォーターを飲みながら、バルコニーの椅子に座って、しばらく景色を眺める。
空は月明かりでますます明るい。
隅っこの方の雲まで、はっきりと陰影がついてくっきり見える。
すぐ下は、夜遅いにもかかわらず、頻繁に車が通る。
ほとんどは日本の中古車だ。
ホテルの正面には、怪しげな中国式マッサージ店が、まだまだ開業中。
遠くの海の方は、真っ暗で何も見えない。


明日からはいよいよ大変かもしれないけれども、まあ仕事でこんなとこまで来れてよかった、という気分になる。
まだまだ起きていたいような気分だったけれども、明日に備えて、午前12時半頃就寝。熟睡。
1日目終了。