アデノイド


上の息子は、3歳になったくらいの頃からいびきや鼻づまりがひどくなってきて、4歳になると、寝ているときに、ときどき呼吸が止まるような感じになってきた。
空気が通らないような感じで、胸をベコベコさせながら、非常に苦しそうな呼吸をして(「陥没呼吸」とか「努力呼吸」とか言うらしい)、そのうち呼吸そのものがストップしてしまう。しばらくすると、ぷはーっとおぼれかけたように口で激しい息をする。
それまでも耳鼻科には定期的に連れて行っていたのだけれども、さすがに見ていられなくなってきたので、大きな病院でちゃんと診てもらったところ、アデノイドという症状らしい。
アデノイドというのは器官の名前なので、正確にはアデノイド肥大という。アデノイドは、喉の上の奥の方、と言うか、鼻の奥と喉の奥の間の上の方の辺り、だそうです。そこが肥大してて、気道が狭くなってる。普通より大きくてブラブラしてて、それが寝るとペタッと気道をふさぐような格好になって、鼻からの息が通らなくなる、と、そういうことらしい。
さらに、扁桃腺も巨大である。これは見ればわかる。異様にでかい。それが事態を悪化させている。
で、蓄膿にもなっているという。アデノイドと関連があるかもしれないし、ないかもしれないらしい。
加えて、アレルギーもある。アレルゲンは特定できてないけれども、ハウスダストがダメっぽい。それと、3月〜4月頃にかけてが、最も呼吸の状態がひどくなるので、花粉もあるのかもしれない。
とにかく、アレルギーの鼻水・鼻づまりと、恐らくそれがトリガーとなって引き起こされる蓄膿、さらにアデノイドと扁桃腺の肥大という三重奏・四重奏によって、呼吸困難が発生するということらしい。


4歳の時、最初に行った病院では、アデノイドの切除の手術を勧められたが、多量の出血を伴うので、体重が20kg を越えてからでないとダメだという。
と言うか、いろいろ調べたところ、そもそも、アデノイドや扁桃腺の切除というのは2説あって、すぱっと切ってしまえばすっきりする、っていうのと、100%無駄な器官ではないのだから安易に切除すべきではないという話がある。近年では後者が優勢のようで、実際、扁桃腺だって昔のように簡単にチョキチョキ切ったりはしなくなっているらしい。


じっくり考えて、とりあえずは出来れば何とか切らずにすませたい、という方向で進めることにした。
アデノイドは、5〜6歳くらいでいちばん肥大し、その後はだんだん縮小していって、10歳頃にはたいてい自然に解決するというから、それまでの辛抱だろうという気もあった。
優秀な漢方医を知っていたので、そこに通って、漢方で頑張ってみることにする。
あまりにまずい薬を毎日飲ませるのに非常に苦労したけれども、少なくとも鼻水・鼻づまりにはある程度の効果があって、かなり症状が改善したように感じた。
ただ、それも時期によるようで、3〜4月とか、特定の時期になると、やっぱり呼吸が苦しそうになってくる。次第に、漢方が効いてるのか、それとも単に時期の問題なのか、よくわからなくなってきた。


6歳になった今年の3〜4月、やはり寝ている間の呼吸が一向に改善されていない。胸をベコベコさせて、ときどき息が止まる。
小学校入学前だったこともあって、また別の病院でちゃんと診てもらうことにした。
子どものアレルギー関係に強い病院で、院長はうちの親父の知り合い。ぼくが子どもの頃に住んでいた家は下宿屋をやっていて、その院長は、医学部生だった頃、うちに下宿していた同級生の部屋へしょっしゅう遊びに来ていたらしい。
で、診察の結果を院長直々に判断してもらったところ、要するに、「アデノイドも扁桃腺も異常にでかいから、切っちゃえば?」ということであった。
いくら大きくなれば自然に縮小するといっても、程度問題である、と。この子の場合はかなりでかいから、切った方がいい、ということらしい。


で、さらにしばらく悩んだけれども、そうこうするうちに今度はまた3度目か4度目くらいの滲出性中耳炎になった。
ネットで調べたところ、滲出性中耳炎の頻発というのは、アデノイド切除の判断材料のひとつである、というような記述もある。安易に何でも切ればいいというものではないけれども、中耳炎を頻発する、とか、陥没呼吸が著しい、とか、そういう場合は切っちゃったほうがいいのではないか、と、そういうことらしい。
この苦しそうな呼吸をこれ以上見てるのももうかなわん、ということで、結局、それじゃあ切ろうと決めた。


そんで、この8月の中旬にアデノイドと扁桃腺を切除。
昔は扁桃腺なんて、1列に並べといて順番にチョキチョキチョキチョキ切って、日帰りですませたらしいけれども、今は全身麻酔で1週間入院が必要だという。
仕事がクソ忙しい時期とばっちり重なってしまい、本人よりもむしろこっちの方が大変なくらいだったけれども、まあ難しい手術なわけでもなく、無事に終了。
担当医に、切り取った扁桃腺2コとアデノイド1コを見せてもらう。扁桃腺はもともと喉の奥に見えてたし、でかいのわかってたから、特に感慨はなかったけれども、アデノイドがそれと全く同じくらいでかかったので驚いた。こんなでかいものが鼻と喉の間にぶら下がってたら、そりぁ苦しいわな。
なんかコリコリしてそうで、食感的にはナマコのような感じではないかと思われる。見た目は巨大なチャンジャ(鱈の胃袋の塩辛ね。韓国料理)に似ている。


呼吸はさすがに劇的に楽になり、いびきも一切なくなった。胸がベコベコしたり息が止まったりしないのは無論、バタバタと暴れ回って寝ていたのが、朝までほとんど同じ姿勢で寝るようになったし、情緒的にもいくぶん安定してきた。
長期的にどういう影響が出てくるのかはわからないけれども、まあ今のところは切って正解だったように思う。


手術前、担当医に、「術後は声が高くなります」とは言われていたのだけれども、本当に高くなったので驚いた。
なんか、回転数の上がったテープみたいな感じで、声が高くなったって言うか、ピッチが狂ってるような気がしてならず、後頭部の辺りに調節ツマミがあるんじゃないか、チューニングが必要なんじゃないかと思えて仕方がない。