バラ屋敷と虹と


昼休み、先週に続いてお散歩クラブに2回目の参加。
今日もいい天気で風が清々しいけれども、先週に比べるとやはりずいぶん暑くて、少し夏に近づいている気がする。上着は着ずに出かけたし、なるべくのんびり歩いたのだけれども、汗が出た。
先週と同じ場所で昼ご飯を食べて、先週と同じコースを歩く。


クラブの会長のよりこさんには、散歩を楽しむ天賦の能力があって、それが会長の会長たる所以であると思われる。
村上春樹は、「小さいけれど確実な幸せ(だっけ?)」というような言い方をするけれども、ああいうようなもの、と言うか、さらにもっと微妙で繊細なものを、会長は散歩コースの至るところで創り出す。


途中、庭に木で出来た猫の置物をおいている家があって、その猫の位置が毎日微妙に移動していると言う。この家の人はきっとユーモアのある人に違いない、などと喜んでいる。
果たしてほんとにそうなのかしらと思うのだけれども、会長が面白がっている様子を見ていると、なんとなくおもしろいような気がしてきて、次第にこちらにも散歩の喜びが伝染してくる。思えばこの人は、高校の頃からこうだった。
梅の実の成長の具合や、家々の様子なども実によく観察していて、新参者のぼくに解説してくれる。
そういう喜びを共有できるかどうかが、お散歩クラブの入会資格なのかもしれない。今日同行の参加者は、ずいぶんと偉い上司のおじさんだった。


抜け道が終わって広い通りに出る角に、古びた小さい家がある。もう今にも崩れそうなボロ家なのだけれども、周囲がバラで覆われている。そのバラが、今日はちらほら咲き始めていた。
先週はまだつぼみだったのに、と、会長はちゃんと1週間前の様子も把握しておられる。
バラは全て薄いピンク色をしている。この色合いも珍しくていい、と会長に言われて、なるほどそのとおりだと気づく。
何せボロ家だから、変に鮮やかなバラに覆われたりしていては、かえって見苦しい。一見したところバラとは気づかないような控えめで地味な色合いが、日に焼けて色あせてしまったポスターのようで、家の佇まいとよく合っている。


今日は午後も快調に働いて、久しぶりに定時に仕事を終えた。
気がつくと、あんなに晴れていたのに夕方には雨がパラパラ降っていて、空が妙な具合になっている。
上にはどす黒い雨雲が覆っているのだけれども、西の方はもう雲が切れていて、夕日が差している。どす黒い雲が夕焼けに染まって、空全体が妙な色合いになっている。
少し本屋で時間を潰してから外に出たけれども、まだポツポツと雨が残っていた。少しの雨なので、この程度ならもう傘なしで大丈夫だろうと自転車置き場から飛び出すと、東の空には大きな虹が出ている。


灰色の雲がオレンジ色の夕焼けに染まった空は、非日常的な感じで、さらに虹がその非日常感を増幅している。
雨に濡れながら自転車をこいで帰って、家に着いたらすぐにTシャツに着替えてビールを飲んだ。