カラスウリ


昨日は天気がよかったので、子供を連れて田舎の伯父母宅へ遊びに行った。父方の本家で、車で20〜30分のところにあるのだけれども、伯父母には子供がいないので、老人の2人暮らしになっている。周りは田んぼと畑で、裏庭に鶏を飼っていて、その下には川が流れていて、その向こうは山になっている。
下の娘は往きの車中で昼寝してしまったので、まずは5歳の息子の「探検」に付き合った。ここへ連れてくると、いつも「探検」ごっこになる。風もなくてあったかかったので、探検にはいい日和だ。
ルールは息子の言うとおりに従った。ある程度進んだら、息子がポケットの中に持っている「怪傑ゾロリ」の食玩のスゴロクを出して対戦する。勝った方が、次にどっちへ進むかを決める。
最初は川のそばまで歩いて、持参した木の椅子(と言っても高さ15cm くらいの、昔まだかまどがあった頃に、火をくべるときに座っていた台みたいなやつ。あれ、何ていうんだろうか。)を、草むらに置いて、その上でスゴロク開始。おやつのおまけだから、短くて、すぐ終わる。
息子が勝ったので、進路は息子が決めることになった。
地震が来たら一発で崩れそうな頼りない橋を渡って川の向こうへ行き、今度は川沿いに山へ向かって、ちょっと足を滑らせると10mくらい下の水面まで一気に落ちてしまいそうな細い山道を、草を踏み分けながら進む。
だんだん木が生い茂ってきて、道が暗くなり始めたあたりで、息子が足もとで何かの実を見つけた。長さ4〜5cm くらいの楕円形で、熟れたものは鮮やかなオレンジ色、若いものは緑色をしている。ウリのものすごく小さいもののように見えるけれども、触ると中が空洞のようにべこべこしている。色がきれいなせいか、息子は妙に関心を示し、熟れたのと若いのを1つずつちぎってポケットに入れた。
「これ何?」と聞かれたが、答えられないので、あとでじいちゃんとばあちゃんに聞いてみようと言うと、もう「探検」はやめて家に戻ろうと言う。この実の正体を早く知りたくなったのか、それとも道が暗く険しくなってきたので先に進むのが億劫になったのか、或いはその両方なのか、とにかくもう引き返すことにした。
帰りは田んぼの中を突っ切って、ショートカットした。田んぼは田起こしをしたばかりで、ぼこぼこして歩きにくかったけれども、息子は土の塊を投げて遊びながら歩いた。畦に生えているススキをむしって束にして、「昔はこうやってホウキにしてたって幼稚園の先生が言ってた」などと地面を掃く真似をしているので、それはうそだろうと言ってやった。鶏小屋をのぞいたけれども、タマゴは産んでないようだった。息子は椎茸の木も物色していたけれども、一つも生えていなかった。
伯父母の家に戻り、息子が早速拾ってきた実をポケットから出して、これは何だと尋ねると、カラスウリだと言う。昔はこれを部屋につるして、風邪を治すおまじないにしたのだと伯母が言った。
伯父は、割ると中からエビスさんと大黒さんが出てくると言う。息子はすぐに薪割り用のナタを持ってきて、割ってみた。すると、なるほど、中の種子が、丸い顔に馬鹿でかい耳たぶをぶら下げたエビスさんの輪郭のような形をしている。
息子はエビスさんも大黒さんも知らないけれども、割って種を出すこと自体が面白いらしく、すぐに全部の種を出し、バケツで洗ってザルにあげた。
種を乾かしておいて家の中に入ると、伯父母が、神棚の横にエビスさんと大黒さんが飾ってあるから見てくればいい、と言う。神棚のある部屋へ行ってみると、直径15cm くらいのエビスさんと大黒さんのお面がいくつも並べて梁に飾ってある。これはお金もうけの神様だと、伯母が息子に教えた。息子は大して興味なさそうだったけれども、カラスウリの種とよく似た形だということは合点した様子だった。ぼくは、どっちがエビスでどっちが大黒だかわからないなあと思っていたけれども、黙っていた。
家に帰って大辞林で「カラスウリ」を調べてみると、種や根は漢方で咳止めやなんかになると書いてあったので、風邪を治すまじないというのも、まんざら遠くもないのかもしれないと思った。