10月2日(土)愛知勤労会館 岡村靖幸ツアー2004 を観る

ちょうど1年前のフレッシュボーイツアーの時と同じ会場で観る。
昨年とほぼ同じで、本編1時間、2回のアンコールが約30分ずつで、トータル2時間強の構成。セットリストも昨年同様、ほぼ靖幸ベスト的な選曲で文句なし。今年は新作アルバムがあるので、当然そこからの曲が入っているけれども、内容・質ともに大満足。

もはや定番となりつつある2回目アンコールでのエレピの即興弾き語りコーナーは、前日に中日優勝が決まったことから、落合監督ネタ。勝手にタイトルつけるなら、『オレ流の勝利〜落合夫人は美しい』。
ラストは、アコギの弾き語りによる『水色の雨』から『Out of Blue』へつなぐ必勝パターン。しびれました。そう言えば、『Out of Blue』ライブ・バージョン収録のシングル盤『ラブ・タンバリン』だけまだ手に入らない。レコード会社のサンプルカセットでしか持ってないので、CDSで是非欲しい。ネットオークションでは、たまに出てもアホみたいな高値がつく。

正直、個人的には今年よりも去年のツアーの方が感動が大きかった。が、それはライブの出来によるものではなく、こちらの事情。去年は数年ぶりのライブっていうことで、コンディションは大丈夫か? 歌は、演奏は、ダンスはまだちゃんとできるのか? 見ていて痛ましいようなものにはなるまいか? といったことを大いに心配しながら恐る恐る観に行ったところ、あまりの完璧さに鳥肌が立った。今年はもういいライブであることが分かった上で観てるから、その違いが大きいと思われる。ライブとしての出来は、今年の方がちょい上でしょう。

しかし、昨年同様、音がいまいちなのは否めないところ。なんであんなにブーミーなんでしょう。よくわからんけど、バンドにDJが入ってるせいかしら。ハコが悪いのか、それとも他の会場でも同様なのか。ベースもでかすぎ。靖幸がせっかくいろいろセリフをのたまっているのに、聞き取れないケースがあり、極めて残念な気持ちになる。

今年の最大の収穫は、靖幸の表情がよく見えたところ。去年は2階から観たが、今年は13列目。目つきまで確認できた。おかげで、気合い・テンション・真摯な姿勢がビシビシ伝わる。靖幸ライブにおいては、表情が見えるということが極めて重要なファクターであることを再確認。

以下、靖幸ライブがかくも感動的な理由について。

まず、靖幸には手抜きが絶対にない。世の援助交際を真剣に憂い、1人部屋で悶々と悩んでしまうような人間性がそのままライブで丸ごと放射される。詞の一語一語、アクションの一つ一つにソウルがある、確信がある。それがダイレクトに客にぶつけられる。その感動は、靖幸の表情が見えると倍加する(笑)。そうした佇まいが、強さと言うよりもけなげさとして感じられるのがまた切なくていい。

さらに、客がよい。こうした靖幸のけなげさを極めて温かく受け入れている。確かに年齢層は高いが、靖幸の本質を十分に理解した質の高い客だけが厳選されて残って集結してる感じ。靖幸がんばる、客それを微笑みながら温かく盛り上がる、っていう会場全体のムードがまた感動的。

とどめに、今年39になる中年が「青春」を歌って不自然さがないどころか、むしろ20代の頃よりもかえって青春的になっているところがもう奇跡的。加齢と肥満は靖幸にとって明らかにプラスに作用していて、「青春」の純度を高めている。『Step Up↑』で踊りまくったあとの『カルアミルク』で息が切れても大丈夫。逆に靖幸のけなげさが強調される。キャリア20年になるベテランアーティストには例がない事態だ。
『あの娘ぼくが〜』や『Out of Blue』のイントロが始まっただけで、胸をしめつけられるような切ない気分になるのは何故なのか(あ、どちらも同じコード進行か)。熱唱する靖幸の「青春」が、若い頃以上に切実なのはいったいどういうわけか? 
結局、青春には実態がない、ということなんだろう。青春を生きるということは、幻想を生きるということであって、幻想には年齢制限がない。我々一般人は、単にいつの間にか青春という幻想の維持を、当たり前のように放棄しただけだ。靖幸のライブで我々ファンは、靖幸が全身全霊をかけて提示する靖幸の「青春」という幻想を共有している。しかも、靖幸の幻想それ自体に共鳴しながら、なおかつ青春という幻想にいまだに動揺し続ける靖幸自身を愛するという、非常にねじれた構造で。問題なのは、靖幸の青春幻想の質ではなく、青春に対峙する靖幸の佇まいなのだ。
だから、靖幸の「青春」を劣化させるものがあるとしたら、それは当人の加齢や肥満などではなく、靖幸自身の「青春」幻想に対するテンションの低下以外にはない。逆に言うと、靖幸が「青春」を信じなくなったときに、この感動と切なさの嵐は終わる。
「青春」に対する確信とそのテンションの維持にとって、加齢や肥満は言うまでもなく大きな障害であるが、その障害をいとも簡単に乗り越えたとき、それは逆に感動を倍加させる。よりいっそう切なくなる。10代の男が「青春」に右往左往しているのは当然だが、40近いおっさんになってそれができるというのはもはや奇跡である。繰り返し言うが、加齢と肥満は、靖幸の青春にとってプラスなのだ。
靖幸ライブは、その奇跡をナマでダイレクトに実感できる、至福の場です。