語学の天才


同僚のケニア人は、異様に日本語が上手い。
日本語を話す外国人は周囲にたくさんいるのだけれども、その中でも図抜けて上手い。
敬語がうちの嫁(日本人)よりも上手い。


先日、そのケニア人に、日本語→英語の翻訳を頼んだ。
彼の母語は自分の部族の言葉だけれども、それ以外に、母国語であるスワヒリ語公用語である英語、そして日本語を自在に操る。
ただ、英語や日本語は、やはり真のネイティブではないので、彼もいまいち自信が持てない。
翻訳後の最終稿は、ぼくのところへ持ってきて、2人でチェックすることにしている。


今回の依頼はなかなかハードな内容の翻訳で、なおかつ締切がきつく、しかも彼はその時、他の仕事で忙しかった。
いつもは時間をかけて丁寧に訳文を考え、推敲を重ねた上で原案を持ってくるのだけれども、今回はそうするだけの時間がなく、不本意ながらも、彼は自分で納得のいかない中途半端な状態の英文を持って来ざるを得なかった。


その時に彼が言った言葉。
「すいません、こんな半ナマの状態で渡しちゃって」


この「半ナマ」という表現にいたく感動した。
その表現の出典はどこかと訊くと、いや咄嗟に思いついたのだと言う。
uncooked の訳語としてひらめいたのか、それとも母語スワヒリ語に同種の表現があるのかどうか知らないけれども、この「完全に仕上げられていない様」を、第4言語である日本語で咄嗟に「半ナマ」と言い表すセンスがすごい。


日本語の学習歴は5年強らしいので、まあ一種の天才だろうと思う。